27歳のとき、一人でパリに行った。

周りの人は反対した。でも行った。

チップをいっぱいもらえた、ただのシャンプーボーイとして、1年間シャンゼリゼにいた。

仕事のない日は、あてもなく街を歩いた。ルーヴルに入って、絵の前でぼんやりした。マレ地区のピカソ美術館にも行った。お金がないから、カフェでエスプレッソを頼んで、何時間も窓の外を見ていた。

孤独だった。でも、自由だった。

日本にいたら、たぶんこんな時間の使い方はできなかった。誰も私のことを知らない街で、ひとりでいることが、こんなに楽だとは思わなかった。

パリの人たちの歩き方が好きだった。急いでいない。でも、だらしなくない。飾っていないのに、なぜかきれいに見える。

髪は、自然体でナチュラルだった。

美容室で見かける女性たちの髪は、日本と違った。完璧に整えられているわけじゃない。でも、なぜかきれいに見える。

その中で、日本人の旅行客だけが、少し浮いて見えた。

ジェロウムという男がいた。

70歳を超えているのに、毎日違う服装で、サングラスをかけて颯爽と立っている。かっこよかった。でも私が本当に目を奪われたのは、彼のハサミだった。

ロングをショートにスタイルチェンジする施術を、長さや量感、質感までも、全部シザー一本だけで仕上げて、それをわずかな時間でやり切る。

日本では一度も見たことのない技法だった。こんな切り方があるんだと思った。

私はお金がなかったから、必死に見ていた。たぶん、お金に余裕があったら、あそこまで真剣に見なかったと思う。貧しさが、目を鋭くしてくれた。

あれから20年が経って、私は今、50歳近い。

パリから帰ってきて、美容師をして、その後ずっとディーラーとして美容室を外から見てきた。

遠回りだったかもしれない。でも今は、その時間があったから見えるものがあると思っている。

そして今、浜松でたった1席の小さなサロンを、ひっそりと始めようとしている。

大きくない。派手じゃない。でも、あの日のジェロウムの手元を見た目と、パリでひとりで孤独だったけど自由だった時間だけは、ずっと持ち続けている。

パリの女性たちの髪のように、ナチュラルに。その美しさを、浜松で形にしようとしている。人生の後半、あのジェロームのように年を重ねるまで。

「あそこにいる人、若い時にパリで1年過ごして、その時に見たカットを参考にしてるらしいよ。」

そう言ってもらえたらいい。

※当店のカットは、パリ流ドライカットを取り入れ、髪の流れや質感を見ながら、一人ひとりに合わせて調整しています。

当サロンでは、静かに過ごしたい方にも心地よくお過ごしいただける空間づくりを大切にしています。

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